一夜明けてカーテンを開けると、空は昨日と同じ清々しい晴天だった。雲がちらほらとあって、
    快晴じゃないところが少し惜しい。
    蒼い空を仰ぎ見ながら両手を伸ばして大きくノビをすると気持ちが良く、何だか今日は
    良い日になる気がした。
    そういえば、昨日の事件はどうなったんだろうか。
    簡単な朝食を終えて、ローズさんに話を聞こうと診療所の外に出ると、
    あの赤髪少年と美少女と出くわした。


   「昨日の方よね…?もう身体は大丈夫?」


    あぁ、彼女は昨日倒れた現場に居たんだった。結局、あれから今まで顔を会わせなかったし、
    私の容態が気になるのだろう。聞いてよいのか悪いのか判断がつきかねているのか、
    躊躇いがちに尋ねてくる。私は彼女の心配を晴らそうと、口角をあげた。
    

   「えぇ、大丈夫。あれからゆっくり寝たら元気になったの。」

   「……まだ寝てなくていいのかよ。」


    顔をそむけながらぶっけらぼうに告げる少年の言葉に、自然と笑みが浮かぶ。
    昨日はあんなに態度が悪かったし、性格が悪いのかと思ったけど、案外いい人のようだ。
    素直に、私の身体を心配してるって言えばいいのに。


   「心配してくれたのね。有難う。」


    私がそう言うと、彼は照れたのか舌打ちして声を荒げた。
    

   「おまえ、チーグルの行ったとこまで案内しろ!そいつらのせいで、俺は泥棒の犯人にされたんだ。
    行って確かめに行ってやる。身体が平気なら、案内ぐらい出来るだろ。昨日、言ってたよな?
    チーグルの後を追いかけたって。」

   「ルーク!彼女は病み上がりなのよ?いくらもう大丈夫って言ったからって、これからどうなるか
    なんてわからないよの?もし行った先で、彼女が倒れたらどうするつもりなの?」

   「いちいちうるせぇな。そん時はそん時だろ。倒れるかどうかもまだわかんねぇだろうが。」

   「ルーク………貴方いい加減に…。」

   「ストーーーーーップ!二人とも落ち着いて。」


    このままだと二人はケンカし続けて埒があかなそうだったので、私は二人の間に割って入った。
    

   「私は大丈夫。身体は健康そのもの。昨日みたいなことになるのは初めてだし、先生も大丈夫って
    言ってくれたから。それに、私もチーグルの件が気になるの。私も一緒に行かせて?」


    ローズさんは1人で外に出るのはダメだと言った。でも、1人じゃないなら、出ても文句は言われない
    はずだ。それに、村の外の世界に興味があったので、これはいわばチャンスだった。
    

   「ほら、良いって言ってるじゃねぇか。さっさと行くぞ。」


    ルークと呼ばれた少年は、少女の意見より自分の意見が受け入れられたのが嬉しいのか、
    誇らしげにふんぞり返りながら先を歩いていく。ルークの意見は受け入れがたいが、私の願いは
    はね除けにくいのだろう。


   「……仕方ないわね。身体の調子が悪くなったら、すぐに言ってね?」


    そうは言ったものの少女はまだ心配なのか額に皺をよせる。そして止めるのを諦めきれないのか
    深い息を吐くと、ようやくルークの後を追いかけた。



   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *
    


    森の中は枝の隙間から柔らかな木漏れ日が落ち、空気も澄みきっていて心地が良かった。
    先程と少し違うのは、ガサガサという何かが動く葉擦れの音と、時折『ギャッギャッ』という奇怪な
    声が響いてくるところ。この声が、ローズさんの言っていた魔物なんだろうか。
    森を入って少し歩くと、狼のような集団が何かを取り囲んでいるのが目に入った。
    どこかで見たことがある姿。あれは、イオン……?
    一緒に居た二人もやはり気づいたのか、声をあげた。


   「あれって、イオンじゃないか?」

   「大変!イオン様が危ないわ!」



    狼が、今にもイオンに襲いかかろうと牙を剥く。そんな狼を尻目に、イオンは地面に手を当てた。
    すると地面に白い模様のようなモノが浮き上がり、光がほとばしったかと思うと、狼は
    細かく千切れるように霧散して姿を消した。後には、荒い息を吐くイオンだけが残る。


   「おい、大丈夫か?」


    ルークが近寄って声をかけると、つらそうにしながらも、イオンは心配させない為か、
    笑顔を浮かべた。


   「だ、大丈夫です。少しダアト式譜術を使いすぎただけで……。」

    
    まただ……。彼の言葉を聞いた瞬間、まさかという思いが自分を満たした。
    あの模様を見た瞬間、あれは『ダアト式譜術』というものなのだと理解していた。
    一度、何処かで目にしたことがある。記憶力は特にいい方じゃないけれど、何処かで
    見たことがあるのは確かだった。


    何故…?私はここの…この世界の住人ではないのに。

    
   「あなた方は、確か昨日エンゲーブにいらした……。」


    イオンはやっと呼吸が落ち着いたのか、顔をあげて3人の顔を見回し、昨日のことを
    思い出したようだった。


   「ルークだ。」


    ルークが一足先に名を告げる。


   「ルーク・・・・。古代イスパニア語で聖なる焔の光という意味ですね。いい名前です。」


    それに続いて、私も自己紹介した。視線がルークから私へと移る。


   「私はです。」

   「…昨日、倒れた方ですね。もう身体は大丈夫ですか?」


    そうだ。イオンも確かあの場に居たんだった。でも、同じ言葉を
    そのまま返したい…。


   「大丈夫です。心配をおかけしました。」


    私が頭を頭を下げると、彼は首を振る。


   「謝らなくても結構ですよ。安心しました。それで…貴方は?」


    イオンが少女の方を向くと、少女も同じように自己紹介する。


   「私は神託の盾騎士団 モース大詠師旗下情報部第一小隊所属 ティア・グランツ響長であります。」

   「あなたがヴァンの妹ですか。噂は聞いています。お会いするのは初めてですね。」


    どうやらイオンの知人の妹らしい。一度会ってみたかったのか、嬉しそうに声をあげる。
    すると、先程まで黙っていたルークが、聞き捨てならない言葉を聴いたかのように、
    声を荒げた。


   「はぁ!? おまえが師匠の妹!?じゃあ殺すとか殺さないとかってあれはなんだったんだよ!?」
    
   「「殺す・・・?」」


    普段耳にしないような言葉が聞こえたので思わず声をあげると、イオンの声を私の声が
    綺麗にはもった。


   「あ、いえ…こちらの話です」


    ティアはあまり大事にしたくないのか言葉を濁す。しかしその態度が気に入らないのか、ルークは
    ティアに食って掛かった。

  
   「話を逸らすな!なんで妹のおまえが師匠の命を狙うんだ?」

   「それは………。」


    ティアが何か言いかけると、視界の端に何かの姿が目に入った。イオンが一足先に、
    それを指差して叫ぶ。


   「チーグルです!」

   「ンのヤロー!やっぱりこの辺に住み着いてたんだな!追いかけるぞ!」
    

    ルークは先程までティアを追求していたことをすっかり忘れたのか、チーグルの後を追う。
    私も続いて追おうとすると、イオンとティアのこっそり話す声が聞こえた。


   「ヴァンとのこと・・・・ぼくは追求しない方がいいですか?」
 
   「すみません。私の故郷に関わることです。できることならあの二人やイオン様を巻き込みたくは…。」


    どうやら何か込み入った話らしい。私は何も聞かなかったことにして、先を行くルークの元へ向かう。
    ルークは見失わないようにチーグルの方に目を向けながらも、なかなかこちらへ来ない私達に
    イライラしているのか、その場をうろうろしている。私が来たのに気づくと、わざと聞こえるように
    舌打ちした。


   「あいつらまだかよ。」

   「大丈夫。途中までなら私も案内できるし、何とかなるよ。」

   「でも、途中までしか分かんないなら、何もわかんねぇのと同じだろ。おい!見失っちまう!」


    焦れたルークが叫ぶと、やっと二人は話しを止めてこちらへ向かってくるのが見えた。
    二人が合流すると、私たちはチーグルの後を追った。


     

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     ゲームの会話を使うとなかなか進まないことが判明…。ヒィィ。